【 輝く一本楓 】
実は一本だけではなかったけれど、周りの木々が葉を落とした中にすっくと立つ姿は、
フィナーレを飾るソリストのよう。
★ ★ ★
奥武蔵・秩父方面に行くたびに、車窓から見えるふたこぶ駱駝の二子山。気になっていたその山に出かけてきました。
冷え込んだ朝です。奥武蔵は都内よりもさらに寒い。芦ヶ久保の駅を下りると、遅咲きのクサノオウも霜まみれになっていました。しばらく暖かい日が続いていたけれど、そういえばもう霜月もあと2日で終わり、近くの山の紅葉を見逃しちゃったかも。
駅のそばの「道の駅」の脇を抜け、線路の下をくぐって登山道に入ります。線路の法面も霜で真っ白。ちょっぴり期待していた紅葉ですが、標高300mの芦ヶ久保周辺でもほとんど葉は落ちていました。
芦ヶ久保から二子山までは兵ノ沢に添って登るルートと、その西の尾根道を行くルートがあります。今日は沢道、でも北斜面の植林帯が続いて気分は今一つというところ。線路を挟んで向かい側の日の当たる南斜面を見ながら、日向山の方が良かったなぁ…なんて思ったりもしました。でも足元のコアジサイの黄葉はいつもながら可愛い。ところどころ雑木も生えていて新緑のころは楽しそうです。
それに、ほら、橋のたもとに生えていたキバナアキギリには萼が残っていて、同じシソ科のジャコウソウのことを思い出したりして、うふふ。ずっと謎だったドライフラワーがジャコウソウの萼だって、ついこの間分かったばかりなんです。
それから、仲良く並ぶ白い石灰岩と茶色のチャート。この山域を構成する代表的な岩石です。この沢の源頭付近に石灰岩に礫を含む石灰角礫岩が転がっていて、フズリナの化石が見られるそうな。実はそれも今日のお目当ての一つでした。でも、あれこれ眺めながら歩いてきたけれど、表面を磨いた標本しか知らないと見つけるのは難しい。ダイヤモンドの原石だって、とてもあれがダイヤだなんてわからないでしょう?「金剛石も磨かずば…」ってこれは関係ない? やっぱり詳しい人に教えてもらわないとね。
で、ふと上を見上げると、向こうの空がほんのりと赤らんでいるではありませんか。わっ、紅葉が残ってる! しかも、先を行く人はそっちに向かって登っていく。登山道はあの尾根に続いているらしい。石灰岩なんか放り出して、そっちに急ぐことにしました。
わぉ! 彩りも豊かに!
これは、この景色だけではるばる出かけてきた甲斐があったというものです。というか、前から、我が家から奥武蔵は案外近くて乗り換えも便利、と知ってはいたのですが、なかなか足が向かなくて。これからはこのあたりをもっと歩いてみましょうか。
陽だまりの倒木に腰を落ち着けて、フルーツケーキでお茶の時間。ちょうど「お十時」のおやつ時です。体も気温も、もうすっかりポカポカ。
それから尾根とは言えない広い斜面をゆるやかに登っていきました。植林あり、自然林あり、足元の落ち葉に気がついて見回すと、ここはカラマツ林。それに両脇の叢。こういうところには結構面白いものがあるんですよね。
ほらね。
尾根に乗ると、ますます明るい落ち葉道となりました。
おや、葉を落とした枝の間に見える雪白き山。あっちの方向は…えっと…浅間山? 山頂に行ったらもっとよく見えるでしょうか。
そのうち「奥武蔵一番の急登」とも言われる上りが始まりました。本当に木の根を掴んで攀じ登ります。手がかりがないところはふくらはぎが伸びっぱなし、時々靴の下で落ち葉がズズズッ。でも有難いことに上の方にはずっとロープが張り巡らされていました。しかもちゃんと結び目がある。これは大事なことですよ。
登り着いた雌岳山頂(870m)は周囲を木立に囲まれて全然展望がありません。10分ほど離れた雄岳の方が見晴らしがいいらしい。そこで一度下って雄岳に向かいます。
なるほど、雄岳山頂(882.7m)は西側が広々と開けていました。武甲山と両神山の間に白く見えるのは八ヶ岳かな。
そしてこの形はやっぱり浅間山。左の方に黒斑山もちょこん。
真面目にコンパスを取り出して確かめてみました。確かに北西の方向です。昭文社の地図は広域が浅間山の手前で切れてしまうけれど、ぎりぎり小浅間山までは載っていて、方向はあっているみたい。その右は御荷鉾山かしら?
ついでに昔覚えた方法も試してみました。今のように便利なアプリがなかった頃、自分の手を使って山や星の間隔や高度を測ったシンプルな方法。充電はおにぎりで済むし、ねっ。
両神山とゲンコツの凸凹を合わせて、と、腕を真っ直ぐに伸ばしてゲンコツ一つ分の角度が10度、親指を伸ばした拳一つ分が15度。二子山から両神山・浅間山の間は確かに親指を伸ばした拳二つ分のおよそ30度でした。フムフム。
さてと、まだ11時を過ぎたばかり、これからどうしましょうか。今日は軽く足慣らしのつもりなので、武川岳を経て名郷へ下りるのはまた今度にしたい、もっと展望がきくという焼山まで行ってきましょう。
雄岳から焼山まではいったん大きく下った後、いくつかのアップダウンと平坦な散歩道の緩急コース。こんな冬木立の間を抜けて歩きました。
このあたりマユミの樹が多いんですね。しかも立派に育ってずいぶん高いところに実が生っています。あれ? マユミの実って小鳥は食べないのかしら? こんなに目につくのにまだ残っているなんて。
おやおや、あらまあ。ここまで来てこんな紅葉に出逢えるとは。
それからちょっとだけ岩を攀じ登って焼山(850m)山頂に飛び出しました。なるほど雄岳よりも一層視界が開けています。ただ、少し霞んできたかな。
焼山から眺める武甲山はとても凛々しい。山頂を半分削られても堂々と聳えています。それにしても良質の石灰岩のためとはいえ、この山に手をつけようとはよくも思ったものよ、そして今も操業中と聞くと、将来はどういうことになってしまうのかと…
さて、来る時は背中にしてきた二子山を見ながら戻ります。もう一度名残の紅葉やマユミのスポットを通っていけるのは嬉しいこと。
でも1時間遅いと晩秋の光線はまるっきり違う。
♪ dancin' ,dancin' ♪
雌岳まで戻ってきました。下山には尾根ルートを使うつもりです。沢道より明るい中を歩けるでしょう。標識には「尾根を歩く道 急な下り坂あり」なんて書いてあります。でも登ってきた道を指す方にも「沢沿いを歩く道 急な下り坂あり」とありますよ。
こちらの下りは傾斜も距離もそれほどではなくて、あとはほとんどこんな植林の中の尾根が続いていました。時々西側に自然林の彩りが見え隠れはしたけれど、沢道より単調かも。
なんて生意気なことを思っていたけれど、ここはちょっと注意。踏み跡は自然に右の方へ延びていきます。それに比べて浅間神社に向かう方は落ち葉に埋もれて跡が見えない。方向はこっちでいいとして、広い斜面のどこを目指せばいいのか。少し離れて後ろから来たグループもしばらく迷っているようです。ようやくとても小さなテープを見つけました。「大丈夫みたいですよ~」。650mで北東へ延びる尾根から離れる地点だと思うけれど、どうして2万5千分の一の地図には神社マークがないのかなぁ。ともかく道標に感謝しましょう。
まぁ、ちゃんと辿り着いた浅間神社で一休み。そこからはほの暗い道をひたすら下っていくだけです。まだ2時を過ぎたばかりなのに、ずいぶん光が弱くなりました。
浅間神社の鳥居がある登山口の斜面は、「芦ヶ久保の氷柱祭」の会場になるところ。太いゴムホースが張り巡らしてありました。
これでおしまい。足慣らしにしてはよく歩きました。
★ 芦ヶ久保駅0838着ー二子山登山口0900-一本楓1000/1020-二子山雌岳
1055-雄岳1105/1120-焼山1200/1230-雄岳1320/1330-浅間神社1410/
1415-登山口1450-芦ヶ久保駅1500/1517飯能行
★ トイレ:芦ヶ久保駅または隣の道の駅
【 おまけ 】
道の駅でマユミの枝を売っていました。買って帰ったら、我が家の玄関がとても明るくなって見違えるくらい。