8/10 (水) 槍ヶ岳に続く道 ② 西鎌尾根 |
今日一日の期待に胸が踊る。
0530 双六小屋発
風が強くて薄いウインドブレーカーでは寒いほどだ。
早朝の空気はこの時間限定の特別配合清涼剤。
昨日歩いたトレイルの先に弓折岳から大ノマ岳、抜戸岳が続き、
その向こうに均整のとれた笠ヶ岳が姿を見せ始める。
振り返れば、双六岳から鷲羽岳を経て野口五郎岳と裏銀座の山々が連なっているが、
行く手の槍ヶ岳はまだ樅沢岳に隠れている。
0600 樅沢岳(2755m)西峰
山頂のブッシュを回り込むと、
この向きの槍ヶ岳はことに凛々しい。
斜め前から差し込む日光はオーバーサングラスでは眩しく、
帰ったら度付きのスポーツグラスを検討しようと思う。
ちらりと覗く御嶽山は今は静かに眠っているだろうか。
裏銀座方面、鞍部の上に姿を見せたのは薬師岳らしい。
季節には見事なお花畑になるそうだが、
今年は雪解けも早く、もう盛りを過ぎてしまったようだ。
左下に小さく登山者の姿と乗越の標識が見える。
これも自然の作り出す景色の一つではある。
このあたりまでは、のんびりと山上の散策を楽しむことができた。
中央下寄りの広場が左俣乗越。
このマツムシソウは写真では捉えられなかったが、
とても色が濃くて、今回の山行中一、二を争う美しさだった。
このあたりから次々に高嶺の花が姿を見せるも、
ザレて注意がいる下りとなり、
群生するイブキジャコウソウの香りなど嗅いでいる余裕はなくなってしまう。
双六岳山頂から槍に向かって飛び立つ滑走路は、こんな感じかと想像してみる。
両手を広げて走り出せば、ふわりと体が浮くかもしれない。
雪が残っていたらきれいな曲線を描くことだろう。
滝谷に第一尾根冬季初登攀、第四尾根単独登攀等の足跡を残し、
北穂高岳北峰直下の松濤岩に名を留めている登山家である。
昭和23年の年末、松濤は北鎌尾根から槍ヶ岳を目指すも、
荒天のため独標から千丈沢に下り、そこで力尽きて帰らなかった。
その活動と記録は、昭和35年、遺稿集「風雪のビバーク」として出版されている。
装備、食料、さらに情報と、
山行の環境が今とは比較にならないくらい過酷だった時代、
そして山への対し方そのものの主流が、私達とは違っていた時代のことだった。
痩せ尾根は部分は短く、
また鎖に頼らなくては上り下りできない箇所は一ヶ所、
大体はこのよう補助的に鎖の付けられたトラバース道だった。
しかし注意して通過しなければならないことに変わりない。
ここで気の抜けない岩場歩きは終わり、最後の登りに備えて休憩する人が多い。
槍の肩へはまず左のルートを登っていく。
明日の下りは最低鞍部の飛騨乗越から、
画面右の九十九折のルートをひたすら下っていくことになるが、
なかなか大変そうだ。
上からハーネスで繋ぎ合った親子が下りて来る。
ここまで出会った最年少のパーティかもしれない。
小学二年生という少年は、
お父さんと一緒の山旅と、登り切った満足感でとびきりの笑顔だった。
始めのうちこそ、こういう単調な上りもいいではないかと思っていたが、
さすがに飽きて、足取りも重くなってきた。
今一度千丈沢を見下ろす。
硫黄尾根の向こう、裏銀座縦走路のスカイライン上にポチッと覗くのは立山ではないか。
こうして歩いたことのある山々に気がつくのは、いつもながら嬉しいことである。
ジグザグ道は下の方では緩やかになっているようだ。
しかし笠ヶ岳は中腹まで雲がかかっていて残念。
むっくりと立ちあがり、まるでオコゼのような姿で愛敬があった。
遥か向こうのあの地点から、
一歩一歩足を運ぶと、いつの間にかここまで到達できるということが、
不思議な気がする眺めである。
中央部双六岳の上にひときわ高く見える黒部五郎岳も雲が取れたようだ。
ずっと先延ばしにしていた西鎌尾根だったが、
スピード感のあるなかなか爽快なルートで、
何より好天に恵まれて、旧知の山々に見守られるように歩けたのは幸いだった。
続く。
素晴らしい天気の日、本当に良かった。
こちら側から見る槍の裾、美しいですね。
あんな険しいところ歩けるの?と鏡平から2度見上げましたが、
歩けるものですね(笑)でも私はちょっと苦手かなと拝見していました。
いつものゆきさんとはちょっと違う(失礼)ピリッとした・・・
レポと言うより記録って感じでカッコイイです(・∀・)
palletさんに教えていただいてはじめてこちらへ来ました。
ゆきさんの写真のセレクトは目線がぶれないので
風景のなかを一緒に歩いているような感覚になります。
まだ歩いたことのない長い西鎌尾根の、
槍がじわじわと近づいて来ます。
チングルマの果穂、フレッシュできれいでした。
西鎌尾根には、お花がたくさん咲いていますね、マツムシソウも
もう咲いているのですね。
>遥か向こうのあの地点から、
>一歩一歩足を運ぶと、いつの間にかここまで到達できるということが、
>不思議な気がする眺めである。
わたしもそう、感じます。日ごろなまけているのに
なかなかやるではないかと誇らしい気持ちになります。
旧知の山々というフレーズが、大変かっこよいです。
いつか使ってみたい(・∀・)
ありがとうございます、楽しく読ませていただきました。
険しさも下から見るほどではないし、
トラバースも十分な幅があって、ザラザラに傾いていなかったから、大丈夫です。
お天気を睨む余裕ができるようになったら、ぜひどうぞ。
>レポと言うより記録って感じでカッコイイです。
どもども。
そのスピード感を活かしたくて、ピリッとにしてみました(^^ゞ
でもこれからどうしましょ。
ってpalletさんから時々お話を聞いて、こっそりブログを覗かせてもらっていたので
(アルピコバスのクッキー缶の時とかね)
はじめましてと言う気がしないのですが。
だから今回鏡平山荘でのyakoさんとpalletさんのすれ違いを収めた
貴重なショットを撮っていたってこと、とても嬉しいです。
実に不思議と言うか、面白いですねぇ。
これからもpalletさんと掛け合いながら歩いていきたいと思ってますので、
どうぞよろしく。
>なかなかやるではないかと誇らしい気持ちになります。
そうそう、それでそれが目に見えるって、いいご褒美ですよね。
フフフ。
嬉しいな。
>旧知の山々というフレーズが、大変かっこよいです。
私もそう思いました。
いつか使ってみたいです
なんちゃって(^^;
御縁ですねぇ。
>私もそう思いました。いつか使ってみたいです
なんちゃって(^^;
こら。
掛け合いになっちゃうの、palletさんが突っ込むせいだ。
槍へ向かってまっすぐに登って行く高揚感のある ルートですね。
見渡す限りの、ゆきさんにとって思い出のある山々に見守られて
長年の宿題をこんないい日に果たすことができて、良かったですね~。
私も嬉しくなりました。
レポがきりっとしていて、読んでいて緊張しちゃいましたよ。(^^)
この日はずっと天気予報を睨んで待ち構えていたんですが、
これほどだったのはラッキーでした。
大体山の天気は変わり易くて、予報通りということが少ない上、
数時間ですっかり変わっちゃうこともあるんですよ。
でも、その時はその時なりの楽しさが、ってそんなに荒れなければね。
そうそう、お散歩大好きになったryさん、
月山には登山バスで行ける湿原があって、
7月初めには一面のお花畑になるそうですから、
ぜひ行ってみて下さいな。
ご来光のシルエット写真、いいですね~
皆さんのご来光を待つ、心震えるひとときが伝わってきます。
朝の西鎌尾根は逆光の槍に向かうことになるけど、硫黄尾根近くになると山容もよく見えてきて、間近に見る硫黄山塊は迫力ありますよね。
皆さんがおっしゃる通り、今回のゆきさんレポ、男前!(笑)
皆さんのレポを見ていると、もう少し早くてもよかったかも、とも思いますが、
この日が一番だったようですね。
はなねこさんは、まだ◯年分私達よりお若いから、次の機会に。
そして、今度こそ好天の槍の穂先からの眺めを堪能して下さいな。
sanpoさんは西鎌尾根は槍から双六だったんですよね。
山って季節も天候も、そして向きや時間でも全然違う顔を見せてくれて、面白いですよねぇ。
そうそう、今回もう一日余裕があったら、奥丸山に寄ってみたかったんですが。
わ、男前だって、照れちゃうなぁ。
あ、それって槍さまのこと?